ルナスティアの最終決戦ということもあって,今まで明かされなかった彼女が魔族化した経緯が語られた。これまでもその巻でキーとなるキャラクターの過去エピソードを語ることがあったけど,大してキャラクターの掘り下げができているようには感じなかった。だが今回は,魔族になった要因やセロが気づいた"西天将"の秘密について暗示するなど,掘り下げと伏線をうまく盛り込んでおり,なかなかよい演出になっていた。
ルナスティアとの決着に関するエピソードは,重要な位置にいるかと思っていたメルルーシパの影が薄かった点を除いて,概ね面白かった。セロのソリッド・トーラスの暴走でバーサクモード突入するという珍事でルナスティア勢を壊滅させるという荒業に出たのはアレだが,それもアルカインがセロをいかに大事に思っているかを描くきっかけにもなっていたのでよしってところ。
それ以外,次巻以降の伏線に関するエピソードは結構蛇足というか,次以降の展開が果たしてうまくまとめられるのか不安を感じさせるものが多かった。
以前,セロに対する異常な執念について語られたフィノ。あの時もそうだが,別にフィノはヤンデレお姉さんという設定に留めるだけで十分なのに,なぜか幼少期に魔族に関する重大な秘密を見ていて,その記憶が封印されているとか,どんだけ重要キャラクターにしてるんだって感じ。まぁ,ただのヤンデレだけじゃ書き続けにくいのかもしれんが,かといってそういう重要なことはもう少し段階を経てほしいんだがなぁ。
フィノの過去とリンクして明かされるセロの出生の秘密もそうだが,いきなりセロが今回初登場した北天将の息子だったなどという設定が出てきたことには唐突感が否めない。まぁ,これまで実親については一切セロが知らないこともあるし,実親が敵の親玉として登場するとかはベタっちゃベタなものを持ってくるのはありかもしれないが,正直フィノの件も含めて色々絡ませ過ぎじゃないかと。
あと,これまで六賢人と魔族が勧善懲悪の構図になっていたが,そこから脱却して魔族側の正義,六賢人側の悪が語られるなど,各々の陣営が非常に複雑になりそうな設定も飛び出し,果たして収拾つくんだろうかかなり不安を感じる。『空鐘』も様々な思惑が入り乱れたけど,結局はナァナァで関係が収束していって,黒幕になったやつを共通の敵にするという単純なところに納まったけど,このシリーズはどうなることやら。うまく収束できれば言うことないんだけど……。
輪環の魔導師〈5〉傀儡の城 (電撃文庫)
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渡瀬 草一郎
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