2008年07月04日

[novel]百瀬、こっちを向いて

恋愛アンソロジー小説や雑誌で作品を発表してきて話題になっていたらしい著者の,初単行本。
アンソロジーや雑誌に掲載された3編に加え,単行本書き下ろし1編を含む青春もの特有の淡く甘酸っぱい4つの恋愛物語が紡がれている。

この著者が評価されるきっかけとなった表題作の『百瀬、こっちを向いて』は,アンソロジーに載ったときに評判がよかったのもうなずける出来。物語は,冴えない性格な上にちょっと厨二病がはいった主人公の少年が,幼馴染の先輩に頼まれて彼の浮気相手である百瀬と恋人のふりをするという,あまりに現実離れした安っぽいB級恋愛小説のような形で始まる。

だが,そんな安っぽくて現実離れした設定とは対照的に,主要人物の4人が抱える切ない想いなんかはとてもリアルに感じされ,相手を好きだと思う気持ちと,高校生なりに好きだけではどうしようもない現実に対する葛藤が丁寧に描かいているのが印象的。
はっきり振られることもなく,本命の彼女がいることでずっと2番でいるしかないことに我慢する百瀬の苦悩や,そんな彼女と接していき,やがて叶わぬ恋と思いながらも彼女を好きになる主人公。身勝手とも言える先輩の行為で知り合うことになった2人の切ない想いと,最初こそ主人公を嫌っていた百瀬の心境の変化に強引な展開は見当たらず,恋愛ものの描き方としてはかなりいい形になっていると感じた。
また,主人公と百瀬を振り回した張本人である先輩のほうも,彼の家族などのことが描かれるにつれて,彼なりの苦悩というものも垣間見ることができ,普段なら嫌われ者になりそうな役どころのはずが,主人公に対して厚い信頼を置いていることも含めて憎めないキャラクターになっている。

一番驚くべきところは,学校のマドンナ的存在である先輩の彼女。お金持ちでお嬢様な性格,さらに学校中から一目おかれる存在という設定に実にマッチしたステレオタイプな人物なのだが,この彼女が実は一番の曲者で,この物語にほんの少しだけど予想外な驚きを提供しており,最初読んだときはただのバカキャラだと思っていたのに,思わぬところからいい意味でサプライズをもたらしてくれた。


『百瀬』のほうは高評価に見合う作品だったが,好みで言えば書き下ろしである『小梅が通る』が一番好きだった。『小梅』は,綺麗な顔であったがために親友だと思っていた友人に裏切られ,それがトラウマとなって転校したことを期にブスメイクで素顔を隠して学校に行く少女が主人公の話。ぶっちゃけ,これなんてエロゲ?と最初思ったが,『百瀬』と同様,そんなアホな設定からは想像できない面白さがある。

恋愛部分の描写に関して言えば,『小梅』は全編の中で一番アホっぽいというか,ブスメイクしている自分のことを好きになってくれた男子のことが好きになってしまったという,どうにも安直さを感じる展開になっていて正直ダメダメ。

だが,主人公の素顔を隠すことの必死さがコメディのようになっていたり,友人2人との思わず涙ぐんでしまうような暖かい友情シーンといった個々のエピソードが魅力的で,またそれらがうまく繋がることで,最初の友人に裏切られたトラウマや隠し事をしていることによる負い目といった息苦しさから,主人公とともに解放されていくのを感じ,最後には大きなカタルシスを得ることができるラストを迎えたことができ,読み終わった時には思わずニンマリしてしまった。


あとの2編については,登場人物の性格づけや背景描写が弱く,話のシチュエーションにインパクトはあるものの,どこか安物の恋愛小説を読んでいるような印象。ただの恋愛小説ではつまらないとばかりに,ちょっとした驚きの真相が盛り込まれているが,そこに至るまでの展開はかなり強引というか,かなり理解しがたい登場人物の心理が絡んでくるため,置いてきぼりを食らった印象があった。

全体的に気になる点が一点ある。それは,主人公もしくはヒロインとなる女性の性格が,みんな自立的で勝気な性格をしているということ。
別に女性はおしとやかで男を立てるべしとかいうことは思ってないし,むしろ本作で描かれているような女性は大好きだが,そういう女性ばかりでは言動が似通ってしまい,結果違うお話を読んでるはずなのに一度読んだかのような既視感に見舞われた。

今回収録された4編はすべて異なるシチュエーションだからまだよかったが,そればかりに頼ると作品の幅が狭くなる。今後も恋愛小説を書いていくなら,シチュエーションだけでなく,異なるタイプの女性も描写できるようになることを期待したい。


百瀬、こっちを向いて。
中田 永一
祥伝社
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タグ:恋愛 小説
posted by タク at 23:01| Comment(2) | TrackBack(1) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
こちらの記事にトラックバックさせていただきました。
解放感がよかったですね。

トラックバックなどいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
Posted by 藍色 at 2008年08月26日 03:48
はじめまして。

こちらも,そちらにトラックバックとコメントさせていただきました。
Posted by タク at 2008年08月27日 23:52
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