2008年07月09日

[novel]僕たちの終末

宇宙創造,救世主創造を語ってきて,今度は恒星間飛行。前2作と比べて格段にでかいスケールでありながら,著者の持ち味である素人でも分かりやすい解説と,お茶の間のような気軽な作風は今回も健在。

時代は近未来,太陽の暴風によって数年後に人類が絶滅してしまうかもしれないという時期に,政府主導で行われるコロニー計画やシェルターなどの退避ではなく,外宇宙に出るために宇宙船を作ることを思いついた主人公が,行き当たりばったりで寄付金を集め,仲間たちとともに宇宙船を作るという話になっている。

今回は科学的な説明が前2作以上に必要となったためか,2部構成になっているうちの1部のほうは,そのほとんどが太陽暴風のことや宇宙船を作るにはどうすればよいか? といったことの解説が大半を占めている。

さすが文章の大半を占めるだけあって,一つ一つの解説がかなり長いのだが,解説する専門家と質問する素人というシチュエーションを作ることによって,こちらが分からないと思いそうなところはちゃんと質疑応答という形でより素人にも分かりやすいように噛み砕いて説明をしてくれるため,あまり苦痛にならなかった。

ただ,ひたすら長い解説ばかりを続けることに単調さがあると考えたのか,それとも著者の作風がそうさせたのか,解説中にキャラクターたちがそれぞれの癖みたいなものを文中で演出しており,それは解説の単調さを回避することには役立ったが,それ以上に悪い点も残した。

この演出,デビュー作『神様のパズル』から引き継いでいるお茶の間感覚を出すという点で難しそうな議題に対して雰囲気を軽くしているし,各キャラクターの意外な癖を垣間見ることができるという点で面白みはあった。特に,解説者で理屈ばかりの変人である岡本が,真面目な話をしているのに柿の種を摘み続けているというギャップには思わず笑ってしまった。
だが,岡本以外にも主人公・正のコーヒーがぶ飲み,ヒロイン・那由のヘビースモーク,マスコットキャラのプリンのボケなど,個々のキャラクターの妙な癖が合間合間でしつこいぐらいに挿入され,その結果,ただでさえ長かった解説の文章量が無駄に膨れ上がり,テンポも悪くするという悪い演出になってしまった。決して悪い演出ではなかっただけに,もう少し演出をセーブするか,しつこいくらいに入れないと疲れてしまうと思うような長い解説は避けるような構成をもう少し練ってほしかった。

あと,前作『メシアの処方箋』でも思ったが,前2作と同じように国も大企業も頼らず個人でSFをやろうとする設定のわりには,キャラクターのつくりや人間ドラマの部分が少し弱い。

主人公は気弱で自己愛に満ちており,自分が助かりたいがために大勢の人を巻き込んで宇宙船を作る計画を立てるも,口だけで実際に宇宙船を作るために翻弄するのは仲間たちだし,自分のわがままのためなら他人はどうなっても気にしないという神経の持ち主で,かなりいらつくキャラクターになっている。
こんな主人公だから,とても共感しかねるし,最後の最後でほんの少しマシなほうに成長するところでも,それまでの主人公の描写がひどすぎたんで,脈絡のない唐突な変化のように受け取れてしまった。

主人公以外,ヒロインをはじめとした他のキャラクターは癖はあるもののいいやつではあるので前作よりはマシだが,とにかく主人公がひどいせいで全てぶち壊しにしている感じ。ヒロインにしても,主人公に好意を抱いていることで主人公以外にロマンスなども発生させることもできず,またロマンスがあっても主人公がアレなだけに,ドラマが発生することもなく,単発の無意味な演出と化してしまった。

また,大して関係を語られないままにカップリングされたキャラクターたちなど,人間関係の描写があまりに薄すぎる。『神様のパズル』は,宇宙創造というSFと学園青春ドラマが見事にマッチしていて,登場キャラクターたちの掘り起こしもうまく出来ていたのに,作を重ねる毎に劣化しているように見えるのは気のせいか。

SF要素については規模が大きくなっているのにうまくまとめあげているし,遊び心も量のバランスは悪かったがユーモアがあって面白くなっている。あとは,デビュー作から劣化を続ける人間ドラマのほうをもう一度見つめなおし,この作者が書いたデビュー作以来のSF要素と人間ドラマがバランス良く盛り込まれた作品を拝みたいものだ。


僕たちの終末 (ハルキ文庫 き 5-3)
機本 伸司
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タグ:SF 小説
posted by タク at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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