2008年08月07日

[cinema]スカイ・クロラ

監督:押井守
脚本:伊藤ちひろ
原作:森博嗣
出演:菊地凛子,加瀬亮,谷原章介,栗山千明
公式サイト:http://sky.crawlers.jp/index.html


永遠に「大人」にならないというキルドレの少年の視点で,ビジネスとして行われる戦争を淡々と描いたSF小説を原作とした,押井守監督の4年ぶりとなるアニメ最新作。

『イノセンス』の興行的な失敗(製作側の勝手な期待が裏切られただけだが)からか,ぐっすり眠っていても眠たくなる催眠効果をもたらす哲学的でゆったりとしたものはなく,あまり気負うことなく,普通に見られる作品になっていた。

あまり小難しいことは描かれていないが,それでも何も考えずに楽しめる娯楽作品というわけではない。

淡々と描かれていくキルドレの少年少女の存在,そんな彼らを見つめる周囲の大人,本格的な戦争がない世界が平和であることを認識するために行われるビジネスとしての戦争など,生と死や平和とは何かなどを考えさせるような要素がつぎ込まれている。

ただ,それらの要素がうまく観客に色々考えさせるだけの説得力をもって描かれていたかというと微妙。原作のストーリーが元々そうだったのか,はたまたアニメ化に伴いそぎ落とされてしまったのかは分からないが,キルドレの存在やビジネスの戦争という特異なものに異常性を感じられず,それゆえにこの作品での主張というものが薄らいでしまっている。あまり重苦しいものにするとウケないと思っての配慮だとしたら,重くしようと軽かろうと押井作品って時点で固定客以外は誤差程度しか入らないんだから,もっと押井色というか,製作者のエゴを出してきてもよかったんじゃないかと思う。

この作品では空中戦に相当力を入れているのか,ドッグファイト時の戦闘機の挙動はもちろんのこと,迫力のある戦闘機の飛行中の音や銃声が尋常じゃないくらいにリアルっぽさを感じさせ,ストーリーがあまり楽しめなかったとしても,この空中戦だけは観てよかったと思えるんじゃないかと思う出来になっていた。

そういえば,なぜか日本語で会話していたキャラが戦闘機に乗っている時は英語で会話しているといった奇妙な光景を見たが,あれは雰囲気とかを重視したのだろうか? 戦闘機と風景の時だけ質感がアニメ調ではない綺麗なリアルCGになっていたシーンといい,変なこだわりが逆に浮いていたのはどういう意図があってそうなったのだろう。完全にはずしているように感じたが……。

テレビ局が製作に絡んだだけあって声優が俳優陣で固められていたが,最初こそ棒読みぶりに吹きそうになったが,慣れというものは怖いもので,その棒読みぶりが逆にキルドレという設定のキャラたちに意外とマッチしているように感じられた。

結局のところ,比較的コアなアニメファン向きの作品のわりには誰でもそこそこ楽しめる,別に押井作品じゃなくてもよかったんじゃないかと思うような作品であった。
ラベル:アニメ 映画
posted by タク at 23:53| Comment(6) | TrackBack(0) | 2008年鑑賞映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。

この作品、テーマが恋愛だからでしょう。

キルドレとか戦争はあくまで舞台設定の一つ、原作も同様にあくまでそういうものがあるんだって程度の描写しかありません。

パイロットが英語を話すのは英語が航空業界の標準語だからですね。
現在もどこの国の所属であっても飛行中の会話はすべて英語です。それを表したようです。

英語の台詞は米国に住んでいた加瀬さんがとてもいい発音で谷原さんも見事だったそうです。皆さん英語堪能なんですね。
Posted by あみか at 2008年08月08日 18:06
はじめまして。

なるほど。テーマは恋愛ですか。
それならキルドレなどの設定はそういうものだという程度で済ませてるのには納得です。

ただ,この1作品だけで見ると素直に恋愛がテーマだと感じづらい気がしますね。
原作に忠実だったというなら仕方ないですが,恋愛がテーマだと感じさせるだけのシーンが足りないように思えます。もう少し主人公と基地長さんの物語を掘り下げてほしかったです。

どの国でも飛行中の会話は英語なんですか。それは知りませんでした。
配給がワーナーということもあって海外も意識した程度だと思っていましたが,英語で会話するというのは現実がそうだからなんですね。
お教えいただきありがとうございます。

英語の発音は確かにみんな(といっても日本人キャストでは3人くらいしか英語台詞ありませんでしたが)よかったですね。
Posted by タク at 2008年08月09日 00:48
こんにちは。

確かに恋愛の要素は少なく感じるかもしれません。
でもカンナミはともかくスイトの細かい仕草の中にとても切ない部分がよく描かれていました。

今はドラマチックに盛り上げる話がもてはやされているのでこういった仕草を見て心境を考えるような恋愛ものは非常に少ないです。

スカイ・クロラではまったく作風は異なりますが小津安二郎監督の映画を連想させます。スイトの振る舞いや長回しには感嘆しました。ただこういうのを受けれる下地があまりに整って無かったのかもしれません。

飛行中の英語での会話ですが同じ押井守監督のパトレイバー2でも緊張感持って描かれています。参考までに。

Posted by あみか at 2008年08月09日 01:17
>今はドラマチックに盛り上げる話がもてはやされているのでこういった仕草を見て心境を考えるような恋愛ものは非常に少ないです。

ドラマチックなものがもてはやされるというのは半ば仕方ないかなぁ,という気はしますねぇ。どうしても,そういうほうが分かりやすいですし。

僕自身としては,そういうキャラクターの心境を読むという作品は嫌いじゃないというか,むしろ好きな部類です。

水素の言動については,函南に対する恋愛感情を思わせるそぶりを随所に見せていましたね。そこは確かにうまく見せてくれていましたね。

ただ,それが函南のほうに直接いっていなかったことや,函南自身の言動が恋愛というものを感じさせるものがなかったことで,キルドレやらのインパクトのある設定によって印象を弱くしてしまっているように思います。
Posted by タク at 2008年08月10日 12:27
カンナミって全然そういう感情を持ってるんだか無いんだか無反応ですね。

原作ではまったくもって表面だけたどればカンナミもスイトも恋愛的な面はとっても少なく彼らの関係っていったい何のかって思ってしまいます。

むしろ原作ではスイトとティーチャーとの間の方が熱烈でわかりやすく描かれていますね。

原作と映画はまったく別物とも言えますがやはり映画化以後に書き進められたダウンツヘブンあたりと比較するのも面白いですね。
Posted by あみか at 2008年08月11日 20:21
実際,函南は感情のほとんどを持ち合わせていないんでしょうね。なんか,生まれたばっかみたいでしたし。

それが函南というキャラクターだというのは理解できますけど,そういうキャラクターを恋愛ストーリーに絡めるには,ちょっと語る時間が足りなすぎですね。

もうちょっと函南が感情を持つところを描いていれば,恋愛要素がうまく活きていたんじゃないかと,今にしてはそう思えます。


原作はティーチャー関連の話が描かれているんですね。
そうなると,映画との差異を楽しむために,原作は読んでみたくなります。
Posted by タク at 2008年08月11日 22:46
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