2008年08月11日

[ライトノベル]俺の妹がこんなに可愛いわけがない

タイトルからして妹モノであることがひしひしと伝わってくるが,この『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』はそんじょそこらの妹モノとは一味違う。ちょっと熱心なオタクネタさえ乗り越えれば,最高に笑って怒ってほんのりできる王道のコメディを楽しむことができる作品だ。

イマドキ風の容姿をした美人で,勉強もスポーツも万能,人並みはずれた努力もするという超人設定を持った妹・高坂桐乃と,そんな妹に蔑まれる平凡であることを信条とする兄・京介。
何年も会話すらしてこなかった兄妹だが,ある日,妹が魔女っ子アニメと妹もののエロゲをこよなく愛するオタクであることを知ってしまったことから,人生相談という名の災難?に巻き込まれてしまう……。

あらすじだけを読むと,実は妹に対してツンデレな京介が,オタク趣味の妹のために奮闘,妹もがんばる兄に惹かれてツンデレヒロインと化す,というストーリーを想像したのだが,それはいい意味で裏切られた。

主人公の京介は,妹のことが大嫌いだとか関心がないとか文句を言いつつも,親の目からオタク趣味を隠したり,同じ趣味の友達を見つけるために奮闘したり,終いにはオタク趣味を守るために親と対決したり……。はっきり言って「かわいい妹のためにがんばる兄」という典型的なシスコンな兄貴としか思えない行動を取っている。そのため,「なんだ,やっぱり妹萌えなんじゃん」と思いそうになるけど,実態はそうじゃない。

行動事態はもろツンデレ。だけど,人生相談に乗るはめになったのは,京介がヘタレだったことと,妹との会話をさっさと打ち切るために「オタク趣味はおかしいか?」という妹の質問に対して「おかしくない」と適当に口走ったことがきっかけだし,そこに妹属性の欠片など見つからない。

じゃあ,どうして大嫌いな妹のためにそんな苦労をしているかというと,一言で言えば「いいやつ」だからだ。
最初の話を切り上げるときにオタク趣味を肯定したのも,たださっさと終わらせたいだけじゃなく,別に好きなものは好きでいいだろ,という想いがあったからだし,その後の活き活きとした妹の姿や,オタク趣味を持った人間と接していくうちに,どんなものでも真っ直ぐに好きだと思う気持ちがとてもいいものであるということ,そんな気持ちを理不尽に否定することがとてもおろかであるという認識を持っていく。

妹だからとか,かわいい女の子だからといったものはなく,ただ真っ直ぐに好きなものに情熱を燃やす人間を肯定する。それ以上でも以下でもなく,この作品で描かれたのはライトノベルの読者層を意識してアニメやエロゲが趣味という設定だったというだけで,偏見をもたれている全てのサブカル(人に迷惑がかからない範囲だろうが)に対して肯定しているんじゃないかと思う。

そんなやさしさを持ちつつも,この作品の面白いというかクールだと感じるのが,あくまで肯定しているはそういう趣味を持つことに対してのみであるということ。主人公は最初から最後までアニメやエロゲといったオタク趣味とオタクという存在そのものに対して,否定もしなければ肯定もしない。最後まで変なもの,おかしややつらであるという偏見を崩さなかった。必要以上にオタクを万歳せず,一般人なら気持ち悪いと思うところは素直に気持ち悪いと表現する,そんなところにテーマに飲みこまれず,冷静に一歩距離を置いているのだ。

オタク趣味についてはあくまで偏見はある,だがそういう趣味を持つこと自体は肯定するという位置づけにいる主人公。そんな彼だからこそ,自虐ネタの連発による痛い笑いも少なく,また一般人がオタクに振り回されるというコメディが成り立っている。そして,ラストに待ち受けるラスボスとの対決がとても熱く,最高に笑えるものへとうまく昇華していく。

ストーリーの構成はもちろんのこと,それ以上に少ないながらもキャラクターの位置づけがとにかく絶妙。妹による濃いオタクネタ絡み以外にも,京介と縁の下で茶を飲み交わすような婆くさいやりとりをする幼馴染によって骨休みをしたり,理解ある?お茶目な母親とのやりとりに笑ったり,ちょい役ですらキャラクターが見事に立っている。タイトルでスルーを決め込んでいただけに,気まぐれとはいえ手に取った自分をほめてやりたい気分だ。

あとがきを読むと新シリーズという単語を見かけたので,近々続編が出てくるものと思うが,果たして今度はどんな熱い展開と笑いをもたらしてくれるのか。非常に楽しみだ。


俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫 (1639))
伏見 つかさ
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posted by タク at 22:47| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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