2008年09月25日

[ライトノベル]under2 異界イニシエイション

前作では,あらゆる方面で叩かれまくっていた『under』。その叩かれぶりにかなり凹んだという同情を誘うあとがき付で出てきた2巻。多少まともになったが,この人は商業ではなく同人でやってるべきだったと実感させられるクオリティだった。

今回のお話は,エレベーターで人が消える神隠し事件と,異界使いが次々と殺されていく2つの事件の解決が並列で展開されていき,真相に近づくにつれ,2つの事件が1つに繋がり,さらに謎の組織がその事件に係わっているらしいという陰謀めいたことまで出てくるというもの。

複数の物語が一つに集約するというネタは飽きるほど出てきているけど,この作品はそんな飽きるほどのものよりも幾分クオリティが高い……なんてことはまるでなく,哀愁漂うあとがきの補正を持ってしても,破綻しない程度にはよくまとめたね,と言いつけをちゃんと守った子供を褒めるような程度のものでしかなく,補正抜きで読むと,2つの事件は完全な平行状態で進行していき,前触れや伏線などないまま2つの事件を関連づけるネタが出てきて,一夫の平行線が90度曲がって強引にもう一方の平行線に交差点を作っていったという,ただただ唐突としか言いようのない構成。そこには,いい加減2つの事件繋げないと話進まないので繋げてみました,という思いつきのような展開しかなく,しかも1つに集約されたことで大きな陰謀とかが見えてくるかと思いきや,せこい陰謀しか見えてこないというしょぼさ。これで本当にOK出されて作家さん的にはよかったのだろうか,とあとがきの不安定ぶりも含めてちょっと将来不安に思えてきた。

そんな構成の話よりも日本語のほうをもっと心配したほうがいいというのもある。1巻と比べるとだいぶマシになったものの,作家がその場で思いついた言葉をただ並べてみたような文章が続き,たまに接続詞なんかもうまく使って文章として読めそうな点が見つかれば,そのすぐ後にまた思いついた言葉の羅列。これを作家の個性というのは簡単だけど,今後も商業で続けさせるつもりなら,甘やかさずに今のうちに補正しておいたほうがいいような。誰もが『リアル○ごっこ』や『恋○』のような奇跡を起こせるわけじゃないんだから。

前作では文章そのものにダメ出し状態だったので気づかなかったが,比喩や効果音のセンスがかなり悪いのも難点。そもそも比喩が比喩になっていないというか,意味をこっちがわざわざ考えて汲み取ってあげないと分からないものばかり。一番気にかかったのが,鎌を振り回す蘭不の姿を「冥府の女王」と例えたこと。「死神のようだ」と例えれば無難なものをわざわざ「冥府の女王」を出してくる。鎌を振りかざす冥府の女王というのに思い当たる人物がいないこっちとしては,そういう存在が一般的に知られているか,というかそもそもそんな存在が神話などで登場しているのかすら考えず,ただ死神よりすごそうな存在で例えたかったというだけの完全に厨二病ここに極まる,という印象しか受けなかった。あと,「マントのような外套」というのも奇妙なもので,マントって外套に含まれるのに何故「マントのような外套」? と疑問ばかりが浮かび,さらにはマントと外套は実は別物だったんじゃないかと疑い始めてしまったほど。このほかにも色々つっこんでやりたい比喩や表現が数多くあったはずなんだけど,そんなことを忘れさせるフレーズの登場ですっかり影が薄くなって記憶の彼方へと消え去ってしまった。

強面のおかげでなめられることがないと粋がっていた空気だった主人公は,今回はシンジ君よろしく「俺は正しく力を使うんだ」を繰り返すうじうじ少年となっていた。前作から幾分月日が経ち,一応は異界使いとして活動しているというのに,1ヶ月前に遭遇した異界使いの"芸術品"とやらに恐怖し,何を思ったか,異界に触れることで自分もおかしな人間になるんじゃないかという恐怖を持ったようで,上記のうじうじ状態に。別に物語の主人公のみんながみんな強くなくちゃいけないわけではないが,どんだけメンタル弱いんだっつぅの。一応,最後には異界使いとしての自分の目指すビジョンが明確になって恐怖を克服するという主人公的には大きな進歩を果たすが,前作の序盤であれだけ粋がってたやつが本当にやばいやつに遭遇してびびって,ようやくマシになった程度のものしか感じない。それに,ノインや秋雨,さらには蘭不にも認められるようになるけど,そのときの会話のやりとりが作者の思いつき言葉を並べただけのようなものになっているおかげで,やっと認められるようになったという主人公の達成感すら台無しにしている。

不満ネタばかりあげてるけど,よかった点も一応はある。前作では世界観の設定あたりが面白いと言ったけど,今回は父親の人体実験によって蘭不が肉体を失うことになった過去のエピソードが語られたこと。そのエピソードを語る言葉の是非は隅っこに置いておくが,このエピソードの挿入によって蘭不が灯香に何故執着するのかが分かるエピソードが語られ,それが蘭不という少女に人間味を出たし,今回の敵が蘭不と同じような境遇にいながら,まったく違う方向の人間になっているという対比のような関係を描いていることもまぁまぁ面白かった。

冒頭にも書いたけど,はっきり言ってこれは同人でやってるほうがいい出来。この作品の最大の失敗は,アイディアは面白いけど商業レベルに達しない同人レベルの作家を,他所に発掘される前に抱え込もうとして商業デビューさせちゃったこと。この2巻で『under』の一応の着地地点が指し示されたので3巻を出す気なんだろうが,その前にもう少し文章がうまいと言われる本を読んで基礎文章力をあげてから取り掛かってもらいたいもんである。


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posted by タク at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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