2008年09月28日

[cinema]おくりびと

監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
出演:本木雅弘,広末涼子,山崎努,余貴美子
公式サイト:http://www.okuribito.jp/


遺体を清め,死化粧をほどこす。故人との最後の別れの儀式を執り行う納棺師を主人公にしたドラマ。
テーマに"死"というものがあること,大々的に公開される邦画。この2つのキーワードから,重苦しい作品というよりも昨今の日本映画の悪い面が出た作品なのかと思っていた。だがそんな杞憂は杞憂のまま終わり,笑いあり,感動あり,そして死や死に係わる人々について,深く考えさせられるいい映画だった。

夢だったチェロ奏者としてオーケストラ楽団に入ったものの,楽団が解散してしまい,職を失ってしまった主人公。失意の中,生まれ故郷の田舎に帰った主人公は,勘違いで面接した会社の社長に半ば強引に入社させられ,どういうわけか納棺師を目指すことになる。

冒頭,納棺師として成長した主人公が納棺の儀を執り行うところから始まるのだが,人の死というものに対して厳粛な姿勢で仕事をこなす真面目なシーンなんだけど,女性の遺体を清めている最中に"あるもの"に気づいた瞬間,重苦しくなった空気が一転して笑いのシーンになる。

このシーン,下手にいじると偏見やら人を馬鹿にしたようなものになって作品を台無しにしちゃうようなネタにも係わらず,そういったものは感じさせない。むしろ,重い作品だと思って肩肘を張って観ているこちらに,肩の力を抜いて観てくれ,と語りかけてくるかのよう。

オープニング後,主人公がチェロ奏者としての夢を諦めるシーンに入るので,最初はなぜ冒頭にこのシーンを持ってきたのか不思議だったが,死と向き合うというシーンでありながらユーモアを交ぜたシーンを見せられたことで,気軽に映画を観ることができたことを考えると,邦画でもこういううまい映画というものがあるんだと感心した。

作品全体を通してユーモア溢れるドラマが展開されていくが,もちろんユーモアだけじゃない。この作品には,生と死というものに対していろいろ考えさせられるシーンが多い。その中でももっとも印象深かったのが,鶏肉やふぐの白子を大胆にほおばる印象的な食事のシーンと,火葬場で働く銭湯仲間のじいさんが「死とは門のようなもの」であると語ったシーン。

食事のシーンの直前,主人公は死人に対して敬意や,最後の旅立ちにふさわしい格好へと着飾らせる儀式そのものの美しさ,神聖さがありながらも,実状を知らない友人や妻から死を商売にした穢れた職であると叩きのめされている。

人の死で金をもらっている以上,そういう偏見はあっても仕方ない。自分もこの映画で描かれる働きぶりを見なければ同じ思いを持っていたと思う(まして,納棺で稼いだ金でふぐの白子という贅沢をしているんだから尚更)。だが,納棺の儀もさることながら,納棺を仕事とする彼らのうまそうに食事をする姿,「どうせ食うならうまい調理法で食う」みたいな台詞を発するシーンを見て,自分と彼ら,果たしてどちらが死というものに敬意を持っているのか,と考えてみると,そもそも比べることすらおこがましくて,ほとんどの人は死というものに敬意どころか他人事としか見ていないんじゃないかと思うようになった。

人の死だけが死ではなく数多の生物の死もまた死であること,生きていくためには生き物を食べないといけないこと,食べるという行為は生き物の死があって初めて成り立つこと。この一見当たり前な事実も,食べるという行為そのものが当たり前すぎて忘れがちになり,多くの死に接しながら,その死や死によって生きていることを意識しない。普通はそんなことをいちいち意識していたら身体がもたないくらいストレスを感じるだろうけど,時々でいいからその当たり前を思い出し,意識することがとても重要なんじゃないかと思えた。

また,同じく死に係わる仕事を請け負う火葬場のじいさんは,死は終わりでも別れでもなく,誰もが死という門をくぐれば,かつて別れた故人と逢うことができる,死は永遠の別れではないと語る。輪廻転生よりも天国・地獄のような死者の世界があるという考え方なんだろうけど,死そのものが生と死の世界を分ける存在となる考え方がちょっと新鮮なものに感じられ,死とは一体なにか,をすごく考えさせられた。

生と死というテーマや,日本人でも普段は接することもない納棺という文化を,オブラードのようにユーモアで包み込んで娯楽映画に仕立て上げた本作。描かれているのは日本でありながら,泣けるけどお涙頂戴な露骨な演出もないため邦画という気がしなかった。この前観た『DMC』といい,こういう映画がまだ出てくるうちは,邦画もまだまだ捨てたものじゃないと再認識させられた。
ラベル:ドラマ 映画
posted by タク at 20:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 2008年鑑賞映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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