2008年10月01日

[ライトノベル]黒猫の愛読書T

第12回スニーカー大賞の優秀賞に選ばれた本を題材にしたファンタジー。実在する小説を絡めたミステリ要素とライトノベルらしいバトルファンタジーの要素がうまくマッチしたストーリーが面白く,またこれたデビューの新人とは思えない文章力でどんどん先を読ませていく,かなり魅力的な作品だった。

本の声を聞く能力を持つ内気で文学少女な綴。図書委員を勤める彼女は,『嵐が丘』という本の下巻の行方を追うことになったときから,『嵐が丘』にまつわる奇妙な事件に巻き込まれていく,というストーリー。

物語のきっかけは本探しだけど,メインは『嵐が丘』を借りた人間がなぜか次々死んでしまうという奇怪な事件の謎を追及していくのが主になっている。そこに,"本の探偵"を自称する猫目コウという青年と「N断章」と呼ばれる書物探しと謎の化け物との戦闘がミックスされ,やがて2つのストーリーが繋がっていくというもの。

『嵐が丘』の行方と秘められた謎の解明は,ミステリならではの読者をミスリードする描写や意外などんでん返しがないものの,段階的に事件やそれに関連した情報が明かしていくことで徐々に真実が見えてくる構成と,さりげないエピソード中に謎の真相を解くネタが散りばめられていて,ラストで「あの場面はここに繋がる伏線だったんだ」と,一つ一つのパズルが組み合わさっていくのを楽しむことができた。

あぁ,意外などんでん返しはないと言ったものの,読者を驚かせようとして無理やりどんでん返しみたいなものは入っていて,ちょっと驚かせることに意地を張りすぎかなぁ,と感じた。この作品には本にも人格があるという設定があり,『嵐が丘』の真相にはその設定を活かしたトリックが仕込まれていて,それはそれでこの作品ならではのうまい手法だと思うものの,さらに変化球を用意してしまったことでせっかくラストに至るまで意外性はなくともストレートに丁寧に積み重ねてきたのに,ミットにおさまる直前でトンデモな変化をして,キャッチし損ねてしまったような印象が残った。それが結局最後まで引きずってしまい,消化不良気味に感じてしまったのはちょっと残念だった。

テーマが何であるかに限らずバトルを入れてしまうジャ○プ病を発症するライトノベルに対して何度も愚痴をこぼしてきたが,この作品はミステリ要素が若干あるわりには意外とバトル要素をすんなり受け入れることができた。

実際にバトルが必要だったかは置いておくとして,そのあたりの描写はあまりしつこくなく,ミステリとしての魅力は決して高くないため,途中途中のバトルを入れたことで結果的にストーリーに起伏ができ,飽きずに読むことができた。

主人公の綴視点でストーリーが語られる。彼女は内気で人と係わらず本とばかりお喋りする文学少女なため,数は少ないなりにそれなりに個性の強そうなキャラクターがいるにも係わらず,彼らとあまり絡まないので,周囲のキャラクターが個性の強さに見合った出番が用意されていない。
綴の友人であるコマチという男女からモテる活発で健康優良子な少女は,綴の人間としての成長に一役買っていることもあってそれなりに出番が多いし,活発さが伝わってくるエピソードの数々に思わず笑みがこぼれたものの,出番だけでなく,隠居生活を送る偏定寺というじいさんや2枚目クールの猫目といった綴の周囲にいる魅力的なキャラクターとの相互干渉があれば,もっと感情豊かなストーリーとなって面白くなっただろう,と思えるだけに,描かれているのが綴と○○という構図ばかりだったこともまたちょっと残念なところ。とはいえ,これシリーズとして展開していくことが既に決まっているだけに,今回は綴の人間としての成長を見せることに集中していたのは結果的によかったと思う。だから,次以降は綴の周囲のキャラクター同士が絡んでいくシーンを用意してほしいと思う。

このほか,海外古典にはあまり詳しくないので『嵐が丘』という作品がどういうものかを知らなかったが,本編中で内容を分かりやすく解説してあり,大体のあらすじと結末が語られながらも思わず元ネタを読んでしまいたくなる紹介文に思わず感嘆。こういう他の作品を読んでみたくさせるライトノベルってあんまりないと思うので,こういうものがラノベで,しかもデビュー作でやれるってだけでもなんかすごいなぁ,と思った。

後半にいくに従い,やや強引で文脈の前後で?が浮かぶ点は多少あったものの,それもささいなこととして気にさせないだけの文章のうまさと勢いがあり,デビュー作とは思えない出来だった。次回作には上記で期待したいことの実現や,イラストの顔以外のバランスとクオリティアップを願いたいところ。


黒猫の愛読書 I  -THE BLACK CAT’S CODEX-  隠された闇の系譜 (角川スニーカー文庫 209-1)
藤本 圭
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posted by タク at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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