2008年10月30日

[novel]チャイルド44

前評判も高く,偶然聞いていたラジオで絶賛されていたので気になって購入したミステリ小説。

1950年代のスターリン体制下にある旧ソ連を舞台に,モスクワの国家保安省に所属するエリート捜査官のレオが,部下の暗躍によって民警へと降格させられ,そこでソ連各地で子供ばかりを狙った連続殺人事件が起こっていることに気づき,国家すらも敵に回して事件を解決するというストーリー。

この作品がとても面白かったのが,作者も意図したらしい国家対個人という構図がありながらも,実際に描かれているのは個々人の感情や事情による対立であること。

"この国には犯罪が存在しない"という国の建前のため,目撃者もいて状況からも殺人であるにもかかわらず,事故として揉み消されたレオの部下の息子の死や,国にとって不要と判断された人間がソ連各地で起きている子供殺害の犯人として都合のよい形で処刑したり,さらに,本物のスパイを逃がすくらいなら無実の人間を巻き添えにしてもかまわないという歪んだ思想。この国の思想が後にレオが転落する要因となり,連続殺人犯を結果的に野放しにしてしまい,さらに真犯人を追うレオの行く手を阻む障害となってくる。

本編の至るところで国家というものが民に牙を剥け,レオや彼の妻のライーサ,さらに彼と関わりを持った人もその牙によって身も心もボロボロにされるので,確かに国家対個人の構図がうまくストーリーに嵌めこまれているように見える,というか実際そうなっている。
だが,対立する国家=国家保安省としてれを追い詰めてくる中心人物に,レオを憎み,どうすればさらにレオを追い込めるかに関心を示すワシーリーという男を置くことで,展開によってはひどくB級なアクションのようになりそうな構図からスポットをずらし,国家が絡みながらも実際には一人の男との対立へと落とし込むことで,国家というものがストーリーを盛り上げるエッセンスに留まるようになっている。このさじ加減は見事としか言いようがなかった。

また,国家(ワシーリー)との対立や連続殺人犯を追うというテーマの中で,国家の言いなりだったレオの一人の人間としての自立してく姿,仮初の夫婦でしかなかったライーサとの関係の修復,レオと家族の絆など,レオとその周辺の人間関係も丁寧に描かれている。特にライーサとのエピソードは一つのラブストーリーとしての完成度が高く,これ単独でも一つの物語として成立するほどの出来栄えで,そんなものすら小説の中の一部分でしかないとは恐れ入る。

最後にミステリとしての質はどうかと言えば,犯人に行きつくまでの捜査の過程に矛盾らしい矛盾も見当たらず,一つ一つうまく理論立てられてると感じるが,この点については国家対個人の構図のインパクトにやられて,他の要素と比べると印象が弱い。犯人が犯行に及んでいるシーンを途中途中に入れ込むのは,レオ達が追っている犯人の残忍さと異常性を見せる点でよかったが,その後レオが犯人に行きつく前に正体が明らかにされてしまい,その結果レオが犯人に辿り着いた時の,真実を知った時のインパクトが弱くなってしまった。とはいえ,この点については犯人の正体を明かされた後に,ストーリーの進行上仕方なかったとはいえレオの意外な過去が明かされたことで,読者に犯人が誰なのかを容易に想像させてしまったので仕方ないんだけど,もう少しミステリとしての意外性というか,真相を隠してじらす演出がほしかった。ま,あまりにいい作品だったが故に,個人的な好みを押し付けたわがままなんだが。


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ラベル:小説 ミステリ
posted by タク at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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