2008年10月31日

[cinema]その土曜日、7時58分

リアルとは何か。自分や身の周りにいる人を見て,常識的な行動や宴会なんかで見せるはめをはずした行動をしていればリアルなのか。逆にあまりに非常識でテレビでしか見ないようなことでも,実は思ったよりもリアルなんじゃないだろうか。そんなことをふと思わせた面白い映画。

映画のストーリーは,誰もがうらやむ生活を送る兄アンディの言葉巧みな誘いに乗り,離婚した妻と娘に払う慰謝料で貧乏生活まっしぐらの弟ハンクが両親が経営する宝石店を強盗するも,二人にとって思わぬ誤算が起き,最悪の事態を招くというもの。

まず映画の冒頭で強盗事件当日,店員の思わぬ反撃によって襲撃した犯人が射殺され失敗するところまでを見せる。そこからアンディ,ハンク,二人の父親チャールズの3人の視点を時間を巻き戻しながら切り替え,なぜ兄弟が強盗事件を起こしたのか,そしてこの事件にたいしてどうけりをつけるのか,事件で妻を失った父親は果たしてどうするのか,といった事の全容を暴いていく。

この映画には大胆な仕掛けもなく,社会派ムービーというわけでもなく,兄弟が起こしてしまったことの重大性からどう逃れるのかといった犯罪ムービーのスリリングさもない。あるのは,一見計画的で頭の切れるやつに見えながら,実際はたいした考えもなくその場しのぎの選択を完璧な計画だと思い込み,結果泥沼から足が抜けなくなった兄と,そんな兄になし崩し的に巻き込まれる弱気な弟の幼稚でばかばかしい道化芝居を見せられる。

また,裕福な暮らしをしているアンディがなぜ強盗計画を企てたのか,映画を観る人なら一番気になる謎はあまりに唖然とするもので,明かされた瞬間「それなんてワイドショーネタ?」と思ったほど。

二人の兄弟がなすことは最初から最後まで浅はか。最初の強盗計画だって,視力も弱く力もない婆さんが店番しているはずだから弟一人でも十分成功するからやってこい,と兄のほうは自分の手を汚さずに済まそうとするし,弟は弟で,臆病だから強盗の実行犯を雇い,成功すること前提だったために実行犯の妻に自分の姿をさらし,結果脅迫されるはめになったりと,この手の犯罪をする映画ではありえない無計画ぶり。あるのはただ「耄碌した婆さんが店番してるし,保険にも入ってるから誰も傷つかないし損せず強盗できるから,両親の宝石店を襲おう」のみ。こんな頭の弱い強盗Aという役回りでもない限りは映画に登場しようもない人物がこの映画では主人公ときたもんである。

こんな主人公たちに劇的な活躍や逆転劇はあるわけもなく,結局計画の失敗のツケを精算するため,「自分の手を汚さず」「誰も傷つけず」「誰も損をしない」の3拍子から見事なまでに正反対なことを繰り返していく。バットエンドというかデッドエンドまっしぐらの選択による人生の転落を,まったく誇張も装飾もなく自然に連鎖していき,またそんな選択をするにふさわしいまでのバカな兄弟の行動や思考一つ一つがあまりに自然体に見えるため,やってることは大袈裟なのに「こういうバカはいそうだし,こういうことやっても不思議じゃない」と思わせるだけの妙な説得力がある。

この妙な説得力がこの映画の一番の魅力というか,唯一にして絶対の面白さで,ストーリーに面白さを見出そうにも,映画としては事件そのものにそこまで魅力はないし,バラバラだった家族が母の死で集まり,またバラバラになっていく様も悲劇というほどの演出がない。さらに,強盗事件についても犯人の正体が明らかになったら終了とばかりに担当の警察官は出てこず,素人のチャールズですら遠い距離にあるド田舎の店を狙った理由に不審に思ってるのに警察はそんなことは露知らず,もう終わったとばかりの態度。さすがにこれはないよ,な話なんだが,でもアンディやハンクのような非常識な例も現実味があるし,こういうの警察も普通にありそうだと思わされる。そんな非常識ぶりが逆にリアリティを感じる,そこがとても面白いところだった。

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原題:Before the Devil Knows You're Dead
監督:シドニー・ルメット
脚本:ケリー・マスターソン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン,イーサン・ホーク,マリサ・トメイ,アルバート・フィニー
公式サイト:http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/sonodoyoubi/
ラベル:映画 ドラマ
posted by タク at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 2008年鑑賞映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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