『嵐が丘』の件以降,アスカロンやコウと会うこともなくいつもどおりの,でもほんのちょっと違う日常を送っていた綴。そんな彼女の前に,コウをライバル視するジールという銀髪の美青年が現れたことで,綴はまたしても奇怪な事件に巻き込まれていくストーリー。
アスカロンの暗部やコーデックスが何故生まれたのか,そして前作でも事件を裏で操ってたとされる魔術師と呼ばれる男は一体何者なのか。これら設定部分の語りが中心になっていて,本をモチーフにした事件などは起きず,ミステリ要素が完全に削ぎ落とされている。
ミステリ要素の穴を埋めるところとして,コウと同じくコーデックスを腕に埋め込まれたジールという新キャラが登場し,コウとの熾烈なコーデックス戦を演じられる。ただ,そのほとんどがジールのコーデックスが攻めて,コウが防御に回るという熾烈だけど地味なものばかりなため,空いた穴を埋めるほどの面白さがない。
ジールを雇っていた裏の組織についても,陰謀ものとしての面白さというのはなく,ついで言うと,ジールだけでは真相に辿り着けないからと強引に雇い主に繋がる手がかりを残すあたりは,あまりに安易すぎるが故に呆れを通り越して笑ってしまった。
また,アスカロンの話や魔術師に係わる件についても,見境なく有名な史実や人物と関連があったことを示唆することに躍起になっていてかなりだれる。これは前作でも感じてはいたが,さすがにやりすぎ。これでは,この作品の設定を魅力的にするどころか,どこか滑稽に思えてしまう。
唯一よかったのは綴の成長物語。前作でこまちという親友を手に入れ,ほんのちょっと前向きになったものの,まだ気弱で人付き合いが苦手で妄想癖(てこれは違うか)な少女のままの綴。そんな彼女が,こまちの友人である犬飼という少女と仲良くなるため,人付き合いが下手なりに接しようとしたり,失敗して落ち込みながらも犬飼やこまちが敵に捕まってしまったことを知り,どれだけ危険でも助けようとする勇気を持ち,本当の意味で自分の言葉を他人にぶつけられる強さを持つに至るまでの過程が丁寧に語られており,こちらも感情移入というか,一人の少女の成長を見守っているような気になり,この点だけはのめり込んで読むことができた。
シリーズ化に伴い風呂敷を広げたが故に,デビュー作のよさが消されてしまった感のある2巻。たとえ荒削りでも1巻のような本をモチーフにしたミステリがほしいところだけど,広げられた風呂敷を見る限り,望みは薄そうか。なんか短編を雑誌連載するらしいが,そっちでそこら辺が展開されるんだろうか。正直シリーズを読み続けるか,かなり迷う内容ではあった。
黒猫の愛読書 II THE BLACK CAT’S CODEX 聖なる夜の外典 (角川スニーカー文庫 209-2)
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藤本 圭
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