2008年11月15日

[ライトノベル]機械じかけの竜と偽りの王子

ファンタジー+ロボットものということで『エスカフローネ』のような実剣がぶつかり合う戦闘があるのか,偽王子ものということでどう周囲を欺いていくのかに,期待が大きくしすぎてしまい,ちょっと肩透かしを食らった感があった。

偽王子ものというと,同レーベルでも『烙印の紋章』や読んだことはないが『タザリア王国物語』などが現在シリーズとして続いているけど,それらと比べるとどうにも見劣りというか,ネタがかぶらないようにした結果,偽王子を演じるということに緊迫感というものがない。

今読んでる『烙印の紋章』も偽者であることで主人公が大きな障害にぶつかるということはないが,この作品の場合,主人公のイアンが演じるアルトゥールという人物がそもそも隠し子で臣下は誰もその存在すら知らず,さらに面識のある王女のフランシスカにしても,顔は認識しているものの,幼少のころに一度会っただけという程度。奴隷だったことでいくらか皇族らしからぬ挙動不審ぶりを見せるものの,本物のアルトゥールがどういう人物だったかをフランシスカ含め知らないため比べられることもないので,嘘をつくことのためらいや挙動不審さえなくなれば疑惑は解消できちゃうレベル。

さらに,イアンが乗るエリュシオンという機体が王族にしか動かすことができないということもあって,少なくとも王族の血を引き継ぐ者であることを結果的に証明している。奴隷だろうとなんだろうと知らない人間にとってはエリュシオンを動かせる時点で王族の人間なわけで,王子のことを誰も知らないこともあって,この手の作品の「ばれたら終わり」的なものは微塵も感じられず,偽王子という設定に関しては物足りなさを感じた。

この作品に出てくるロボット,というか機巧兵(アームネイン)については,主人公とライバルの機体が(操縦者の腕も含めて)規格外な激しい動きをしてくれるんだが,そのすごさ,スピード感はあまり感じない。また,イアンのほうも攻撃をかわすくらいで,あとは体術……というか足を掴んで投げ飛ばすという見た目上かっこ悪いことしかやらないので,金属同士がぶつかり合う重々しさもない。しかも,クライマックスの戦闘では訳の分からん奇跡を起こして勝利するという,大変面白みのないあっけなさ。初回でそんなことやる以上は,もう少しかっこいいことやって,それでもピンチという時にしてもらいたものだ。イアンの戦闘スタイルについては,シリーズを重ねることで経験を積み,映像にしたら見応えのある戦いができるようになるまで辛抱するしかないのかもしれない。

この巻での機巧兵のアクションについては,量産型に乗ってる脇役や名も無き兵たちのほうがずっとかっこよく活躍している。数千に及ぶ機巧兵同士のぶつかり合いはもう少し重量感がほしかったが,金属同士がぶつかり合う迫力は十分感じられたし,近衛長官のファウラーやヒューム,オルグレンの3人が各々の獲物を持って敵をなぎ倒していくところは結構かっこいい絵を想像できるシーンが用意されており,もっと彼らが活躍するシーンがほしかったところ。

キャラクターに目を向けると,これまた主人公やヒロインのフランシスカよりも脇役のほうが魅力的というか,印象深い。

ファウラーは60歳超えとは思えないくらい精力的で,かなりの熱血漢タイプ。こういう熱血じいさんが活躍するだけでも個人的にはポイント高い。本編中盤までの扱いと戦闘では活躍できなかったことが残念なものの,アシュフォードの騎士精神ぶりを見せるシーンは,その忠誠心に思わず心をわしづかみにされ,それまでのうざいとすら思ってた言動も許せてしまう。さらに,そのシーンが本作のラストシーンにより涙を誘う効果をもたらしており,なんともいえない哀愁を漂わせていた。

そのほかにも,本作の中心的人物の一人ヴィクトや敵将たちなど曲者揃いで,今後彼らがどういう役割を演じていくのか,気になる人物が多い。魅力あるキャラクターは十分用意できてるので,あとは彼らに設定された性格や人物関係などをもう少し尊重した展開をしてくれると嬉しい。ヒュームとオルグレンは相当仲が悪いという設定だったのに,戦場ではお互いをただ助け合うだけだったのには泣けたので。(できれば,ヒュームが敵の大将に押されたときに嫌味を言いながらもオルグレンが加勢するといったことをしてくれたほうが,仲は悪いものの戦場では手を組むぜ,みたいな熱い展開になったと思うし。)

期待が大きかった分,それに乗らなかった部分もあるけど,脇役の魅力と活躍もあって総じてみればかなり面白い作品だった。あとは偽王子の設定には目をそむけるので,主人公が奇跡にも頼らず,純粋な機巧兵の操作でもっとかっこよく活躍をしてくれれば文句ない。

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posted by タク at 17:01| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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