2007年08月30日

[novel]慟哭

慟哭 (創元推理文庫)慟哭 (創元推理文庫)
販売元 : Amazon.co.jp 本
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[タイトル] 慟哭 (創元推理文庫)
[著者] 貫井 徳郎
[種類] 文庫
[発売日] 1999-03
[出版社] 東京創元社

ずいぶん前,とりあえず手に取ってみた貫井徳郎という作家の小説を読んだ時に,1人称で語られる心理描写の深さと,3人称で語られる距離を置いた文章ながらも描かれた人物たちの心情が強く伝わってくる文章に魅了され,さらに文章そのものがトリックのように真犯人をミステイクさせるミステリーとしての面白さに虜になってしまった。
そんな貫井氏の処女作にして傑作らしい本書がどれほどのものか気になって手に取ってみた。

物語は誘拐されていた幼女が死体となって発見されたところから始まり,その事件を担当する佐伯と,娘を失ったことで救いを求め,宗教にのめり込んでいき,やがて娘を黒魔術によって復活させようと幼女を誘拐,殺害するようになる松本というの二人の男の視点から交互に描かれていく。

本書がとてもうまく構成されていると感じさせる部分として,二人の視点がザッピングして進むわりには佐伯側では事件が既に発生しているのに対し,犯人となる松本側では犯行に至るまでの宗教へののめり込みなどの心理描写を描くことに集中しており,犯行に及んだ際には,最初の黒魔術の模様は詳しく書かれるものの,それ以降は誘拐までの手口と結果だけにしていて,犯行そのものがとても曖昧な描き方になっている点。
また,佐伯と松本という二人の人物の対比がとても印象的で,かたや冷静沈着でいたエリート警官が,犯人を逮捕できないことや周囲との関係の悪化によって段々と壊れていく様が描かれ,かたや最初から壊れ気味だった人物が,宗教に出会って生き生きとしながらも,狂気に囚われていき,冷静な殺人鬼になっていく。

そんな対称的な両者が物語上でリンクする時,予想していなかった真実が浮かび上がってきて,その真実を知った瞬間の驚きは,読者が予想できないトリックでもって目眩ましするようなミステリーでは決して味わえない,ミステリーの新しい驚きを提供してくれる。その驚きは読み返してみると半減するものの,所々に言われてみれば不自然だった点なども多数見つけることができ,新たな発見もすることができる懐の深さを持っている。

ただ,テーマも違うしザッピングではなく章立てで描かれている点など,多々違いはあるのだが,本書のようなミステイクを誘うテクニックで紡がれた『神のふたつの貌』という作品を本書を読む前に読んでいたことでインパクトの強さというものは若干薄らいでしまったように感じる。途中でネタが分かったということは決してなかったのだが,「あの作品と同じ手法やな」というデジャブを感じてしまい,ミステリーとしてのミステイクを誘う描き方は本書のほうがずっと手が込んでおり,ラストの驚き具合もずっと上だと感じるのだが,違う作品で既に同じようなインパクトを感じてしまっているので,ちょいと読む順番を誤ったかな,と思った。
posted by タク at 21:46| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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