2008年03月11日

[ライトノベル]旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫 よ 4-1)
萬屋 直人
メディアワークス (2008/03/10)
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名前を失い,色彩を失い,やがて存在も失うという「喪失症」が蔓延し,緩やかに滅びゆく世界を舞台にした青春ロード小説。

本作で一番面白いところは,「喪失症」によって全ての人々や物の名前が消えているため,個人を特定するための名前が存在しないこと。名前が存在しないため,主人公とヒロインも「少年」「少女」という便宜上の呼び名で統一されている。

この名前が存在しないという設定はとても珍しくて,そういう作品を読んだことは思い出す限りは(タイトル忘れたが)短編小説で一度だけ見かけた気がする。ただ,それが人だけでなく地名にまで及ぶとなると読んだことはないので,この設定はかなり新鮮で面白い。

ただ一つケチをつけるとするなら,2章で喪失症で存在が消えた場合,その人だけでなく,「その人が遺した絵画や文章など。印刷物、録音物にまで及ぶ全ての痕跡が消えてなくなる。」としているのに,何故か消えた人が書いたマニュアルが残っていたりと,言ったそばからの矛盾が出たかと思えば,この矛盾の回避として,最後の最後で後出しじゃんけんのような喪失症の"抜け道"というのを出してきたこと。
この"抜け道"というのがこの世界での救いの一つではあるんだけど,それなら最初から提示しておいてほしかったなぁ,と思った。

「喪失症」という特殊な設定を抜くと,あとはロード・ムービーのような旅の途中の出会いや別れを描いたありきたりで目新しいことはない。
ただ,新人さんとは思えないくらい文章が丁寧で読みやすいし,演出の抑揚のつけかたが結構うまいので,名前がないことも踏まえて主人公とヒロインに感情移入しやすかった。

あとがきを読むと,どうやら今年の電撃小説大賞の最終選考まで残った作品っぽいんだけど,先月読んだ大賞とか銀賞とかよりも,この作品のほうがずっと賞取っていい作品じゃないかね,と思う出来。賞レースとは不思議なものだとつくづく思う。
posted by タク at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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